東野圭吾『片想い』

片想い (文春文庫)
タイトルからは“恋愛小説”のようにも思えますが、『白夜行』『手紙』でおなじみのミステリー作家東野圭吾の作品。
この作品では“ジェンダー”にかかわるミステリーを描いています。
 
青春時代をアメフトで一緒にすごした仲間たち。
この物語のほとんどは、彼ら・彼女らの行動だけで進行していきます。
告白される殺人事件。
その事件の裏で展開されていた、ジェンダーに絡むある計画・・・
 
惹きこまれるようにして読んでしまいました。
特に感心したところが、この問題の本質部分をちゃんと描いているところ。
つまり、“彼女(彼)は彼(彼女)として普通の生活をしたい”ということ。
さらに驚いたのが、この小説の初出は1999年。構想としてはもっと前でしょうから、今のように情報がありません。その当時に、いくらエンジニア出身の作家とはいえ、ネットからの情報だけではこれだけのバックグラウンドを書ききるのは困難だと思いました。取材力なのか、想像力の賜物なのか。
 
主人公はアメフト部のQB(クオーターバック)の哲郎なのですが、最後まで読んで初めてこのタイトルの「片想い」が誰から誰への想いなのかが判明します。
普通のミステリー小説では刺激の足りない人におすすめです。
 
ぜひ、実写化して欲しい作品ですが、それから8年経った2007年現在では、問題が解消の方向に向かっているので、実情に合わなくなってきているかもしれません。
ちょっとそこが惜しいところかな?